by Minoru IKEDA
基本的なヒトの染色体構成は染色体数46個で,性染色体はXY,またはXXです。最初の性の決定は,性染色体の組み合わせによって行われます。すなわち,卵子では23個の染色体のうち1個の性染色体は常にX染色体です。精子では23個の染色体のうちX染色体をもつ精子とY染色体をもつ精子の2種類があり,卵子と精子が受精して,下記のような2種類の組み合わせができます。
卵子(23,X)+精子(23,X)=46,XX
卵子(23,X)+精子(23,Y)=46,XY
性染色体による性,または遺伝的な性 genetic sex は46,XXが女,46,XYが男です。
このようにヒトでは遺伝的な性の決定権は精子にあり,Y染色体をもつものはX染色体の数とは無関係に遺伝的に男,Y染色体をもたないものは遺伝的に女と考えれられています。
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受精卵が分化発育していくとき,まず性腺原基がつくられます。これは将来精巣に発育する部分と卵巣に発育する部分を有しています。ここでY染色体にあるTDFという遺伝子が性腺原基に働きかけると,精巣へ分化させる遺伝子を活性化させるスイッチが入ります。すると性腺原基は精巣へと分化します。また,Y染色体がない場合,TDFの働きかけがありませんので,精巣へ分化させるスイッチが入らず,性腺原基は卵巣へと分化することになります。つまりY染色体があると男性の性腺である精巣が作られ,Y染色体がないと女性の性腺である卵巣が作られます。 |
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受精卵が分化発育していくとき,内性器の基となるWolff管とMuller管がつくられます。ここに精巣で作られた男性ホルモン(testosterone)とMuller管抑制ホルモンが作用すると,Wolff管から精巣上体(副睾丸),精管,精嚢などの男性内性器が形成され,Muller管は退縮します。このような分化は受精後約10週ごろの時期におこります。もし,この時期に男性ホルモンやMuller管抑制ホルモンが作用しなければ,Muller管が分化を始め,女性の内性器である卵管,子宮,膣などが形成され,Wolff管は自然と退縮していきます。つまり内性器の性は胎児の精巣から分泌されるホルモンが重要な働きをすることになります。 |
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外性器は,精巣より分泌されるtestosteroneが外性器の原基に作用して,陰茎,陰嚢が作られます。この分化も内性器の分化と同じ受精後10週から12週の時期に行われます。もしこの時期にtestosteroneが作用しなければ,外性器の原基は陰核,大小陰唇,膣へと分化し,女性の外性器となります。 |
胎児精巣より分泌されるtestosteroneは,8〜10週頃より上昇し,12週頃にピークに達し,17週頃には低下します。このtestosteroneによって,前述した内外性器が男性型に分化しますが,同時に脳に対しても影響を及ぼします。この時期に脳がtestosteroneを浴びると,女性の性行動を支配する中枢が消失し,男性の性行動を支配する中枢が優位になります。また,思春期以降脳は周期的なホルモン分泌を行って女性の生理を引き起こすようになりますが,胎児期のtestosteroneはこの脳の周期的分泌機構を永久に不活化します。このように脳の性が出生後の性の発育や性行動に大きく関与してきます。心理的精神的性のくいちがいと言う問題もここから起こってきます。(脳の性分化)
ヒトでは女性型が基本で,修飾が加えられなければ女性に分化します。男性に分化するためにはY染色体上のTDFという遺伝子と精巣から分泌されるtestosteroneが重要ですが,前述したような過程を経る必要があります。そして,1〜5の性がすべて一致しなければなりません。
このようにして生まれてきた新生児はここで男か女かの認定を受け,戸籍上の性(法律的性 Legal sex)が決定します。この法律的性別は男と女のみで,それ以外の性は認められず,また,その決定は外性器の形態のみで行われています。そして,この法律的性に従って育てられ,社会の中で男性として,または女性として性が確立していきます(社会的性 Social sex)。
時に性分化がうまく行かない場合があります。例えば外性器の形態異常や両性の性腺共存,外性器と性腺の不一致などが起こることがあります。その場合,出生後どちらかの性に認定し,その性に一致するように外性器の形成手術や性腺摘除術が行われます。これらの治療は法律上許容されていますが,治療に際して,脳の性別まで考慮して行われることは少ないようです。また,身体的性(1〜4)は一致しても脳の性とのくいちがいが生じることもあります。すでにアメリカではこのような方々のためのホルモン療法や性転換手術が行われており,日本でもやっとこの分野での治療がスタートしようとしています。
山村 貞子 (鈴木 光司 著「らせん」「リング」)
睾丸性女性化症候群 遺伝的性は46,XYで,性腺は精巣に分化しています。精巣からは,testosteroneとMuller管抑制ホルモンが分泌されますが,この疾患はtestosteroneを感受するレセプターが欠損しているため,Wolff管は分化せず,精巣上体や精管,精嚢は形成されません。また,Muller管は退縮して卵管や子宮もありません。外性器の原基にもレセプターが欠損しているため,testosteroneが作用していない状態と同様で外性器は陰核,大小陰唇,膣が形成され,また,思春期になると乳房が発育します。
関屋 利夫 (渡辺 淳一 著「桐に赤い花が咲く」)
『医師は(中略)乳房に触れ,局所を見た。局所は茂みは普通であったが,男性のものと思われるのは,小指の先ほどの大きさで,それも四,五センチに満たない。ペニスというより突起に近い。(中略)突起の下面はたてに割れ,その長さは七,八センチに及ぶ。』という外陰部の所見だけでは,どのような原因で性の分化が障害を受けたのか分かりません。ただ,射精ができることから,少なくともtestosteroneの分泌によって前立腺等の発育があったと考えられ,性腺の性は精巣であろうと思われます。『男とか女とか,必ずしもどちらかでなければいけないといった考え方は,次第に消えている。(中略)自分の好きな方になってかまわない。しかもそれを誰も気にしない,いまにそんな時代がくるかもしれない。(中略)そのうち男でもない,女でもない,どちらにも属さない性がでてくるかもしれない』16年前渡辺淳一氏が予測した時代は,私たちが性に対する偏見を捨て,性の分化を理解すれば,遠からずやってくるでしょう。